幸せのお裾分け
2023.4.21
嬉しいことがあった。
時は遡ること3年、コロナで緊急事態宣言が出されていた頃。
当時働いていた会社も在宅を試みたり休みにしてみたりと模索していて、しばらく家にいる日が続いていた。
普段引きこもりがちのわたしはしばらくぐうたら過ごせてハッピーだった。でもそれも長く続いてくると退屈だ。目に見えない何かに怯えながらただ何もなく過ぎていく時間に、次第に焦りを感じていくようになった。
ある日、今日も暇だなあとぼーっと空を見ていたら、ふと「似顔絵とか描いてみようかな…」と思った。そういえば仕事でいっぱいいっぱいでしばらく絵を描けていなかった。iPadを引っ張り出してまずは家族を描いてみた。うん、悪くない。何もなかった日常に夢中になれる楽しみが生まれた。
ある程度方向性を決めたら、物は試しという気持ちで似顔絵屋さんアカウントを開設した。最初は優しさから友人や知り合いが依頼してくれていたが、そのうち全然知らない人からも依頼が来るようになった。
そしていつの間にか100枚近くの似顔絵を描いた。まさかこんなことになるなんて!
基本は人の似顔絵を描いていたけれど、中にはペットだけでお願いますという方もいて猫や犬やうさぎを描くことも多かった。人と会うことも話すことも最小限にしなければいけなかった状況で人の優しさやあたたかさに触れることができたかけがえのない時間だった。
冒頭の"嬉しかったこと"とは、その頃に似顔絵を依頼してくれた人から先日「実は似顔絵を描いてほしいんです。まだやっていますか?」と連絡があった。
その人は以前、自分とペットの2ショットと、後日追加で彼と彼の飼っているペットの2ショットの似顔絵をそれぞれ依頼してくれていた。
実はもう最近は似顔絵をおやすみしていた。どうしようかなと思って読み進めるとなんと「あの時描いていただいた彼とこの度結婚することになりまして、ウェルカムボードに使う似顔絵を描いていただきたいんです」とのことだった。
ええっ!と声が出た。そんな感動的な出来事に立ち会わせてもらえるなんて、イラストレーター冥利に尽きるこの上ない喜びだ。わざわざやっていなさそうなわたしのアカウントに、数年越しに連絡までしてきてくれるその気持ちが嬉しかった。高まる胸を抑えきれないまま「おめでとうございます!ぜひ!」と返事をした。
最初はただただ暇で思い立って始めた似顔絵。
沢山の人の笑顔を見て、描いて、喜んでもらえて、わたしも嬉しくて、といつの間にか幸せのサイクルができていた。きっとあの時だったからこそ良かったんだろうと思っていたけれど、時を経てまたその幸せをお裾分けしてもらえているなら、きっと時期なんて関係なかったんだ。
わたしの絵で少しでも人を笑顔にできるなら、できる限り描き続けたい。
そう思わせてくれる周りに深く深く感謝して。